Midi-Pyrénées / ミディ・ピレネー

Midi-Pyrénées / ミディ・ピレネー

北にはMassif Central中央山塊、南にはLes Pyrénéesピレネー山脈、そしてその中間には平野部といったヴァラエティに富む地形をもった地域圏です。古くはComté de Toulouseトゥールーズ伯の領土の主要な部分を担っていました。また、その伯領は広く現在のLanguedoc-Roussillonラングドック・ルシヨン地域圏にも及んでいました。ちなみにこの場所に限らずほぼla Loireロワール川以南の地域全体で話されていた言葉であるオック語について、フランス語ではその地域をOccitaniaオクシタニアと言い、その言語をL’Occitanロクシタン(化粧品メーカーの名称もここに由来しています)と言います。このような地形の多様性はそのまま文化の多様性に表される事は他の地域圏を見ても明白です。また、この地域、またLanguedocも合わせた広義でのトゥールーズ伯領は12世紀頃隆盛したキリスト教異端カタリ派との関係を抜きには語れません。この宗派はAlbiアルビに多くいたことからアルビ派(アルビジョワ)とも言われます(実際はToulouseが本拠地と言っても良いくらい多かった)。そして、彼らの討伐にあたったアルビジョワ十字軍後、この地域は王領に編成され、それ以後はトゥールーズ伯領に則った区分けはされてこなく、州編成後は、現在の地域圏の北半分がGuyenneギュイエンヌ州、南半分がGascogneガスコーニュ州の一部に分かれており、それらはともに現在のAquitaineアキテーヌ地域圏に属します。このように近世からはAquitaineの影響が大きく、このことは『地方菓子』についても然りです。


  • Gâteau à la BrocheBaumkuchenŠakotisGâteau à la Broche / ガトー・ア・ラ・ブロッシュ

 この地域圏で最も有名な『地方菓子』でしょう。その中でも山間部、つまりLes Pyrénéesピレネー山脈とMassif Central中央山塊に位置する町で主に見られます。つまり、特定の町のspécialitéというわけではなく、山間部という特定の地形・地帯におけるspécialitéなのです。よく言われる事ですが、Les Pyrénéesピレネー山脈のspécialité、というわけではありません。さらにこのような、「biscuitビスキュイ生地を串に絡めつけながら焼いて特徴的な層と角状の節を作り上げる」、という菓子はヨローパ各地で見られます。当地以外で見られる場合は軒並み低地なのですが、基本的には森林地域を内包している自然の多い場所です。日本で最も有名なのがドイツのLand Sachsen-Anhaltザクセン・アンハルト州が元祖と言われる「Baumkuchenバウムクーヘン」でbaumは「木」、kuchenは「ケーキ」を意味します。ちなみにここには北ドイツ最高のHarzハルツ山地があります。しかしこちらは角状の節は見られなく、なだらかな波状の見た目です。こちらは滑らかな表情からも分かるように、この形態の菓子の元祖ではなく、その起源になったものと言われる菓子があります。その一つと言われているのがこのこのフランスの「Gâteau à la Broche」であり、もう一つがリトアニアの伝統菓子「Šakotisシャコティス」、ポーランドでは「Sękaczセンカチュ」と呼ばれるものです。リトアニア語とポーランド語なので呼び名に違いがありますが、両者は中世中期からポーランド・リトアニア連合王国と呼ばれる同君連合を組んでいました。ちなみにリトアニアでは南東部のDzūkijaズーキヤ地方、ポーランドでは北東部のWojewództwo Podlaskieポトラシェ県の『地方菓子』にあたり、この両者は隣り合い、同じ森林地帯を共有するほどです。こちらは前者が「枝分かれ」後者が「節々」を意味しているようにまさに「Gâteau〜」にそっくりです。角の出来方は生地の組成(粘度)、串の回転速度、焼成温度などによって異なるので、これは生産者の個性によりますが、伝統的な方法として薪による直火で、しかも手動で回転させているもの多くは角が多く尖った感じになります。しかしこのようにこれら全く異なる地域で似たような菓子があることは不思議としか言いようがありません。


  • TourteTourte / トゥルト

 基本的にはAquitaineアキテーヌ地域圏において「Tourte des Pyrénées」と呼ばれる『地方菓子』になります。この地域圏でも西の方は冒頭でも書いたように州制時代には同じ州に属していたことからか、この菓子がよくみられますが、名前は「Tourte」のみになります。詳しくはAquitaineのページを参照して下さい。






  • PastisPastis / パスティス

 上の「Tourte」と同様に、基本的にはAquitaine地域圏でよく見られる『地方菓子』です。かの地では「Tourtière」と呼ばれる事が多く、Aquitaine以外でもここMidi-Pyrénéesミディ・ピレネー地域圏などその文化圏に近い地域では「Pastis」と呼ばれ、それ以外の地域では「Courstade」と呼ばれる事が多いです(例外はままありますが・・・)。そしてAquitaine以外で見られる場合は得てしてpâte filo(可塑性の無い油分を含むpâte生地を透けるくらい薄くのばしたもの)で作られることが多いです。この名前で売られいる場合は十中八九このpâte filloを使って作られています。中には基本的にはcrème d’amandeアーモンド・クリームを入れ(入っていない場合もままあります)、そこにpommeリンゴやpruneau干しプラムを入れています。Aquitaineでもこの組み合わせが王道ですが、これはpruneauの一大生産地であるAgenアジャンがあるためです。そしてこれらの地域では同じく近くにその地があるArmagnacアルマニャックで香り付けされている事が多いです。名産品を存分に活用するのも『地方菓子』の特徴です。


  • Gâteau BasqueGâteau Basque / ガトー・バスク

 その名の通り「バスク地方の菓子」です。この地域圏にはBasqueに当たる部分は含まれてはいませんが、遠くはないこと、Les Pyrénéesピレネー山脈山麓という似たような立地と風景など、結局は有名であるということからこの地域圏でも目にするのだと思います。詳しくはPays Basqueのページを参照して下さい。






  • FouaceFouace / フアス

 この地方でも山間部、それもMassif Central中央山塊に位置する町でよく見られる菓子です。このことから分かるようにAuvergneオーヴェルニュ地域圏南部でも見かけます。「Fougasse」という名の菓子がPACAでは見られますが、名前からその類似性が知れます。しかし、その違いもあり、「Fouace」は形がcouronne王冠型であるのに対し、「Fougasse」はサイズ・形は様々ですがfeuille葉っぱの模様、もしくは形をしています。ちなみにPACAでも特にCôte d’Azurコート・ダジュールでは「Fougasette」の名前で、よりパン生地のような(油脂分と糖分の少ない、もしくは無い)もので作られる事が多いです。 名前以外にもこれらには決定的な共通点があり、それはfleur d’orangerというオレンジの香料が使われている点です。ちなみにPACA、特にCôte d’AzurではEpiphanie公現祭の時は「Galette des Rois」以外に「Brioche des Rois」としてこのようにbriocheをcouronneにしたものを食べます。写真はSaint Laurent du Varのページを参照して下さい。


  • NoixNoix / ノワ

 この地域圏の北部、つまりはLimousin Périgordリムーザン・ペリゴール地域と接する地域はNoixクルミの一大生産地として有名で、PérigordのnoixはA.O.C.(原産地呼称統制)にも指定されています。これらの地域ではこのnoixを使った様々な菓子が多く見られます。