Rhône-Alpes / ローヌ・アルプ

Rhône-Alpes / ローヌ・アルプ

Ile de Franceイル・ドゥ・フランス地域圏に次ぐフランス第二の人口を有する地域圏で、規模にしてもMidi-Pyrénéesミディ・ピレネー地域圏に次ぐ広大な地域に及びます。故にRhôneローヌ川・Saôneソーヌ川の温暖な平野部から西部のMassife central中央高地、東部のAlpesアルプス山脈といった冷涼な山間高地といったバラエティーに富んだ地理を含んでいます。また、中世においてはToulouseトゥールーズ伯領、フランス王領Dauphinéドーフィネ伯領、Savoieサヴォワ伯領に、近代においてもSavoie公領(サルディーニャ王国)とフランスの領土に分かれていました。このように地理的にも歴史的な勢力図にも則った区分というわけではないため、『地方菓子』についても、全体に統一したspécialitéがあるわけではなく、やはりその地理によってある程度ばらけたものが存在します。この辺りが現在の基準まとめられた「地域圏」という枠組みで、歴史的背景を主なバックグラウンドとして存在する『地方菓子』を区分する難しさであると思います。


  • Saint GenixBrioche à la PralinéSaint Genix / サン・ジェニ

  • Brioche à la Praliné / ブリオッシュ・ア・ラ・プラリネ

 このRhône-Alpes地域圏で最も頻繁に見受けられる『地方菓子』です。実際には下段の名前でフランス各地に存在していますが、実際はSavoieサヴォワ県のSaint Genix sur Guiersという町のSpécialitéです。やはりorigineに近い事から、他の地域では各pâtisserieで単発で見られるものが、この地域では全体的に見る事ができます。この地域は中世からサヴォワ伯領、サヴォワ公国という歴史的なバックグラウンドを共有する地域です。しかし、この旧サヴォワ公国領内でもそれ以外の地域でも「St.Genix」の名前で売られている事は余り多くありません。大っぴらに他の都市名がついた菓子を売る事に抵抗があるためかもしれません。その組成についてですが、ここに面白いバックグラウンドの違いからくる相違が見られます。まず、旧サヴォワ公国内・フランスの他の地域でみられるものは基本的には普通のBriocheです。ですが、下に書きますが「Pognes」が見られるこの地域圏のRhôneローヌ川流域ではこの「Pognes」の生地を使っています。それ以外は同じで中や外にPraline rougeプラリーヌ・ルージュ(赤く着色した糖衣をかけたamandeアーモンド)を入れ、多くの場合、上にsucre grain(粒子の粗い砂糖)をふります。オーブンの熱によってpralineの砂糖が溶け、所々が赤く染まっていたりします。


  • PognesPognes / ポーニュ

 元々はRomansのspécialitéでしたが、現在ではLyonリヨン以南のRhôneローヌ川流域の町でのみ(稀に内陸に入った場所にもあります)みられる『地方菓子』です。これはbrioche生地ですが、ベーシックなものよりも若干砂糖が多く、甘めになっており、若干オレンジの香りがしますが、これはfleur d’orangerフルール・ドゥ・オランジェという香料かzeste d’orangeオレンジの皮が入っているためです。形は必ずcouronne王冠形をしています。前述のようにこの地域では、この生地でBrioche à la pralineを作ります。このような甘く、fleur d’orangerが入ったbriocheは広くPACAの方にも広がっています。この地域は中世以前はブルグンド王国として、その後は神聖ローマ帝国領としてフランス王家や北のブルターニュ公国とは違った社会を形成していた時期もある地域です。また、Romansは中世後期には毛織物で栄え、Rhôneを下ってアラブまで貿易を行っていたことから、アラブ産のfleur d’orangerが食文化に取り込まれたと考えられます。


  • SuissesSuisses / スイス

 Lyon以南のRhôneローヌ川流域で見られる人形のsabléです。このような人形のものは「bonhommeボノンム(男の子)」と言われ、フランス各地ではbrioche生地で作られます(12月6日のSt.Nicolasの日だけは「Saint Nicolas」の名前でうられることが多いです)。これにももちろんfleur d’orangerが使われています。元々はValenceヴァランスの町が発祥です。この菓子の名前と細かい装飾、そしてその名前は『スイス傭兵』から来ていると言われます。Valenceはフランス革命期にNapoleonナポレオンによって翻弄されたPape教皇PieⅥピウス6世が幽閉され、死去した町でもあります。この時の彼の警護をしていたのが、当時衛兵輸出を主産業としていたスイスの衛兵達でした。その彼らを模したのがこの菓子だと言われています。歴史・文化的要素と、土着の食文化が融合したいい例だと思います。


  • Gâteau de Savoie:Biscuit de SavoieGâteau de Savoie / ガトー・ドゥ・サヴォワ

  • Biscuit de Savoie / ビスキュイ・ドゥ・サヴォワ

 この地域圏でも東部のSavoieサヴォワ県、Haute-Savoieオート・サヴォワ県でみられる『地方菓子』です。写真のものは上段の「Gâteau〜」になり、下段の「Biscuit〜」は主に薄く伸して生菓子のパーツ用であると思っていました。しかし、実際にorigineの場所に行ってみるとその区別は非常に曖昧で「Gâteau〜」の名前はほとんど見られませんでした。構成はどちらも同じでœuf卵をjaune d’œuf卵黄とblanc d’œuf卵白にclarifier(澄ませる、濾過する)し、jaune d’œufをsucre砂糖とblanchir(白くする、この場合は攪拌して空気を含ませて白くなること)したものに、monter(立てた)したblanc d’œufとfarine小麦粉をさっくり合わせたものです。Gâteau de voyage(日持ちのする小型ではない焼き菓子)の場合はbriocheにも使うcannelé(溝のある)型に入れて焼き上げます。どちらも低温のオーブンでそれなりに長い時間入れて乾燥焼きします。


  • Croix de SavoieCroix de Savoie / クロワ・ドゥ・サヴォワ

 上の「Gâteau de Savoie」同様にSavoieサヴォワ地域で主に見られる菓子です。名前の通り十字の形をしています。これは歴史的にサヴォワ伯領、サヴォワ公国と続いたサヴォワ家の紋章に由来しています。この菓子の組成はbriocheでそれを十字に重ねて焼いているわけですが、様々なバリエーションがあり、真ん中にcrème pâtissièreカスタード・クリームをはさんだものを厚く切り、それを十字に重ねたものや、そのcrèmeにチョコ・チップを加えたものなどがあります。